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ふるさとの大地の霊   

  故水野英男先生の思い

  ふるさとの大地の霊

  父祖代々焼きもの尾林焼(飯田市龍江)を業として来た者にとり、この地
  との関わりは深い。ここ南信州、伊那谷は古くから焼物が作られてきた。
  当地方は比較的温暖な気候であり、何よりも 陶土に恵まれていたからだ
  ろうか。遠く縄文時代の頃から各年代の器物が数多く発掘されている。
   特に尾林では、慶長10年(1609)銘の狛犬により そのころから
  施釉陶が焼かれていて現時点では県下最古の窯とされている。江戸時代の
  後期に現在の尾林焼が始まったが、今も登り窯などは当時の形態であり、
  陶土その他、釉(くすり)の原料など 全て尾林の周辺から調達している
  のである。例えば長石類は近くの八野倉石であったり、大平峠から木曽へ
  かけての石であったり、または鉄分の多い水打粘土、鬼板などは先祖代々
  採集場所が言い伝えとして残っているのである。

   先年、赤石山麓のしらびそ高原へ車を走らせた。谷間の山路を行くうち
  偶然にも焼きものの原料として使えそうな青砂に巡り合い、早速それらを
  持ち帰り、試作を重ね見事に成功して、今では私の大事な釉調のひとつと
  なっている。このように自然界の原料との出会いは作者にとり感激一入で
  まさに「大地の霊」を感ずるものである。
   またこの伊那谷は幸いにして、南アルプス、中央アルプスの岳々が朝夕
  眺望できる。春夏秋冬 あの神秘的な雄姿に心惹かれ、遥かなる岳々に
  思いを馳せながら、作陶に向かうのである。

   また、私の窯場周辺には古くから竹林があり、大地に根を張った生命力
  (繁殖力)旺盛な竹を忘れることができない。春先になると、筍が次から
  次へと生え出して、それらを頂戴する恩返しのつもりで 今日では竹の
  イメージを大切に作陶している。
   
   一方、わが家は父祖代々半農半陶の世界で生きてきた。私は春になると
  農作業の田植えをしなければ、心が落ち着かない。人は 本来農耕の民で
  あったのか、土に触れていなければ安心できないのである。そして汗して
  終えた田圃に佇む時、無類の安堵感と安らぎを覚えるから不思議である。
  時代はどのように流れようと、先人たちが代々にわたって築き上げ、守り
  続けてきたこの地での生活を大切にして、この風土に拘り続けてゆきたい
  ものである。それは決して人が自然を征服するものではなく、春夏秋冬
  自然の季節の流れに従い、自然に対する畏敬の念を持ったものでありたい

   ふるさとは自分の足もとに、この地に暮らしていつまでも、
  大地の霊を大切に守ってゆきたいものである。
  
  

   

  
  

by kigimama | 2015-09-25 20:02 | Comments(0)

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